というわけで、承前です。
『クトゥルフ神話TRPG』は一点を除いて、とても初心者向けだ、と私が考える理由を挙げていきたいと思います。
1.システムがわかりやすい。
システムが、理解しやすいかどうかは、実はそれほど初心者に対して重要なことだと思っていません。確かにたくさんの数式がどこどこ出てくるようでは、なにが起こるかおどおどしている初心者には思わず腰が引けてしまうでしょうが、そこまですごいシステムは昨今お目にかかったことがありません。
ですが、わかりやすいに越したことはないと思っています。
そしてですね。クトゥルフの場合(というか、ベーシックロールプレイングシステムの場合)、わかりやすいというのには3つの方向性があるのです。
1) 判定方法がわかりやすい。
2) 基本的に計算をしない。
3) なにをしているか、具体的である。
判定方法がわかりやすい、というのは、特に技能のことを念頭に置いての話ですが。
技能は成功確率がパーセンテージになっております。パーセンテージというのは、学校で教わるぐらい、スタンダードな確率概念です。それに男子なら、たぶん、野球の打率とか、サッカーの勝率とか、そういったもので、この成功確率という概念に馴染んでいるはずです......あ、これは世代差があるかな?
とにかく、パーセンテージダイスの読み方がわかって、どの技能で判定すればいいのかわかれば、あとはそれ以下の数字をダイスで出せれば成功、出せなければ失敗。わかりやすいですし、直感的です。
また、基本的に計算しません。「抵抗表や能力値のn倍ロールがあるじゃないか」と言われればその通りなのですけど、やっぱり圧倒的に使うのは技能判定ですよね。その技能判定において、計算を基本的にしません。他のゲームだと、<技能レベル>+<能力値修正>+サイの目が目標値以上......と簡単な計算ではあるけど、するものが多いです。
まあ、これ、難易度がつけにくいというシステムの欠点と裏表ではありますが。
「なにをしているか、具体的である」点も、理解には重要な点だと思います。つまり、そのサイコロがなんのアクションを表現しているのか、それが具体的にイメージ出来ると理解が早いという。技能自体で振りますので、例えば、<電気修理>技能で振れば、ドライバーやらペンチやらでごちゃごちゃやってるんだろうなあ、と想像がつくわけです。これが「【敏捷力】で判定」とか言っても、ちょっとどんな感じか、掴みにくいところがあると思うんですよね。想像にワンクッションおくというか。
戦闘システムだともっと顕著で。
例えば、剣を振って相手に当てる判定があって、成功すれば、当てられた。しかし、相手が受け流しをする判定があり。相手が受け流しに失敗したら、ダメージを決定。それぞれのキャラがアクションしているところがめに浮かぶぐらい具体的です。
これがD&Dのアーマークラスとなると、ちょっと抽象的なものが入って、回避や受けの分の修正も最初の命中判定の難易度として入ってしまっているわけで、判定回数は1回で済むのだけど、イメージはしづらいですね。ここらへんは初心者ひっかかることがあるのです。
2.プレイヤーはキャラシートを見ているだけでプレイが可能
......なんですよ。必要な情報はすべてキャラシートに書かれている。基本的にこれ以上計算する必要は無く、そこに書かれた技能値以下を出せるか出せないかだけがすべて。プレイヤーはルールブックを持っている必要も、精通している必要も無いのです。もちろんあれば楽しみが増えますけど。セッション自体にはキャラシート(とダイス、筆記用具)だけですむのです。特別なルール(能力値n倍ロールとか、正気度ロールとか)はキーパーが必要になったときに教えてくれますし、それもそんなに複雑なルールじゃありません。表を見る必要があるくらいですね。
このことはまた、オンラインセッションに向いていると言うことでもあります。キャラメイクさえしてしまえば、あとはプレイヤーはキャラシートだけで済みます。プレイヤーがルールブックを所持していなくてもプレイ可能......ではありますけど、TRPG業界のために、出来ることなら買って欲しいですねえ。クトゥルフやって、面白かったら、ぜひルールブックを買ってやってください。そうすれば、その後のサプリが出ます。お布施というか、先行投資だと思ってやってくださいよ。
売れなかったTRPGシステムの末路は悲惨だよ......。
3.ホラーはのめり込みやすい
実はホラーというジャンルのひとつの特色として、他のジャンルより、のめり込みやすい......インサイドしやすい、という言い方がいいかな? とにかく、物語の中に入り込んで、主人公と一体化して感情を共有しやすいのです。
そして、長らくTRPGやっている人ならだいたい賛成してくれると思うんですが、このインサイド体験というのがね。もうね。病みつきになるほどの快感なのですよ。
俗に「乞食と役者は3日やったらやめられない」とか言いますが、それというのも、役者はこのインサイド体験を体験しやすいからだと思っています。
とにかく、気持ちがいいんですよ。ものすごく面白い映画や漫画や小説を読んだときにも時たま感じますが、TRPGセッションではもっと頻繁に味わってます。
最初のセッションで、このインサイド体験をしちゃうと......(そして、初めてのインパクトで、意外と起きやすい)......もうあとはTRPGにのめり込みですね。
なので、インサイド体験をしやすいホラーは、初心者引きづり込みにもってこいなのです。
4.背景世界をプレイヤーが知っている必要は無い
クトゥルフ神話TRPGはクトゥルフ神話を背景世界としたTRPGです。ですが、PCはクトゥルフ神話について、なにも知らないのが普通です。なので、プレイヤーも知っている必要はありません。魔法のシステムがどうとか、ギルドがどうとか、特殊能力の効果がどうとか、知っている必要は全くないのです。
これ、次に挙げる「現代が舞台である」にも絡むのですが、舞台が現代日本以外だと、多少は知識が要るかも知れません。1920年代アメリカで、銃器の扱いがどうだったかとか治安とか。でもまあ、今の日本でのプレイの主流では現代日本なので、プレイヤーは本当に、背景世界に対して詳しい必要が無いのです。
5.背景世界に現代日本を選べる
まあ、正確に言うと、「背景世界が、クトゥルフ邪神が存在する現代日本である」と言うことですが。
元々はクトゥルフ神話作品をラブクラフトが書いた1920年代アメリカが舞台の場合が多かったのですが、最近のクトゥルフブームは、現代日本が舞台であることが大きな要素のひとつになっていると思われます。
なにしろ、現代日本なら、余計な説明をしなくていい。どうすれば騒ぎになるか、ならないか、警察はどんな組織で、どんなことをしてくれるか、他の社会的機関はどうなのか、人々の物事に対する反応はどんなものか、情報伝達手段や移動手段はどうなっているのか、それらを使うとき、いくらぐらい金が要るのか、どれくらい手軽あるいはメンドウなのか......すべて説明無しでOKです。銃器を手に入れたいとプレイヤーが考えたとき、それはどれくらい困難なことなのか、リスクがあることなのか、キーパーだけでなくプレイヤー自身にもわかるわけですよ。
もちろん好みはあるでしょう(うちのニョーボは1920年代アメリカが好き)が、現代日本を選べるというのは、初心者に対して大きなアドバンテージだと思います。
6.知名度が高い
ここ数年、クトゥルフ神話の知名度は特に高くなっています。昔は熱心な小説読みか、SFやホラー愛好家しか知らないようなジャンルだったのですが、今はちょっとサブカルチャーに興味のあるひとなら名前を聞いたことがあるというレベルになっています。
クトゥルフの大ファンでなくても、「へえ、聞いたことがある。それのゲームか。面白そう」と興味を持ってもらえる可能性が高くなりました。
やはり、興味のないジャンルより、ちょっとでも興味があるジャンルです。
......とまあ、こんなところですかね。
もちろん、クトゥルフにも、初心者向けでない要素は入っています。
まず、PCが非力すぎて、存分に楽しめない可能性はあります。
現代日本に関しても、プレイヤーとキーパーの認識が違いすぎると、トラブルが起きます......むしろ、一見同じ物を指しているのに、実質で食い違っていると、トラブルは根深くなりますので、これも危険な点です。
前の記事で述べたとおり、明確な敵を設定し、それを倒したらクリアとするのはものすごくわかりやすくて、初心者向きではありますが、クトゥルフではこの手は使いにくいです(もちろん、倒すべき明確な敵を倒せるものに設定する......たとえば、ハスターを倒すのではなく、ハスターを召喚しようとしている魔道士を倒す、とかにすればよいのですが)。倒せる敵倒せない敵の認識さえ間違えなければ、これは実はそう心配することでもありません。
戦闘というのは、何をやっているのかわかりやすいという点で、初心者のPCが取りやすい手段のひとつなのですが、これが封じられているのはキツいですよね。戦闘によるカタルシスも得られないので、戦闘を味あわせても、死亡の恐怖だけしか感じられないでしょう。
それでも、クトゥルフは初心者向け......正確にいえば、初心者をTRPGに引きづり込むのに最適のシステム(とシナリオ)のひとつだと言えると思います。欠点というか、落とし穴がないわけではないですが、それを補ってあまりある長所があると言えるでしょう。
「倒せない相手も出てくる。そんなときは逃げるんだ」
この一点さえわかっていれば、『クトゥルフ神話TRPG』は初心者にお勧め、初心者引きづり込みに最適のシステムでしょう。
コメントする