いえね。ツイッター上で、「『クトゥルフ神話TRPG』は初心者向けじゃない」というつぶやきを見かけたので。
私がどう思っているかというのを先に書いてしまいますと。
「そうとも言えるし、そうとも言えない」......ってガンダルフみたいな曖昧な言い方になってしまいます。
まあ、この手のことって、例外事項があって一概に断言は出来ない場合がほとんど、そして、TRPGは例外事項がやたらあるので、ますます一通りに断言することは不可能なんじゃないかと思います。そもそもTRPG自体が、ゲームという定義の例外事項の塊みたいなゲームですから。争わないし、終了条件もないし。
......と、逃げを先に書いておいたところで、本論に。
『初心者』は本当に『初心者』なのか
まずね。初心者、というくくり方がまずいと思うのですよ。いきなり議論の前提からぶっ壊すような意見ですけど。
30年間、いろんな人にTRPGを勧め、大半を引きずり込んできた経験から言うと、初心者というのは、「TRPGをやったことがない、やっても1~2回やったことがあるだけ、でもTRPGに興味がある」という要素以外、まったく共通項がないのです。(そもそもこの定義にさえ、「やっても1~2回」という例外事項が入ってくるくらいだから)
最初から、TRPGの面白さにのめり込んでしまうひと、世界にインサイド出来てしまう人、スリリングさを求める人、カタルシスを求める人......そしてそれらの項目の逆、つまり世界にインサイド出来ない人、とか.........も存在するわけで。数字の計算に抵抗があるひと、ない人、計算の速い人、でもかなり変わってきます。あるタイプの人々には魅力的なアイテムであるメタルフィギュアとかミニチュアにどん引きする人もいるだろうし。
初心者、というくくり方は非常に曖昧で、議論の前提とするにはかなり危なっかしいシロモノです。
とはいえ、初心者というくくりで議論を進めなくてはいけないときもあります。今がまさしくそうで、だから、ここでは「TRPGを初めて体験するプレイヤー」ということにしましょう。初心者GMにとっての条件なんかまで考えたら、非常に複雑曖昧になってしまいますから。
とにかく、この「初めて体験する」だけが完全共通項ということで、「初心者だから複雑なルールはわからない」みたいな、一件繋がっていそうで実は別の独立した項目を、連想出来るからと言ってくっつけてしまうことは厳密に回避しておきたいと思います。ルール覚えたり、判定式覚えたり、計算が得意だったりする初心者さんも、それらが苦手で数字や式が出てくるだけで腰が引けてしまう初心者さんもいる、ってことですよ。それは、その人の性格や適性であって、「初心者」というグループの性質ではないです。
初心者に紹介するTRPGシステムとは
というわけで、TRPGが初めて(でも興味がある)という人にTRPGを紹介してプレイさせてあげるとします。さあ、どんなシステムがいいか?
これまた、結論から言っちゃうと、「その初心者さんがやってみたいと言っているシステムがあるなら、それをやるのが一番」です。いきなり、また逃げみたいな、そしてつまらない結論を言ってしまいますが。
昔だったら、「ロードス島戦記面白かった。ああいうの、ゲームで出来るんだって? ぜひやってみたい」という人がたくさんいたし、今だとこれが「クトゥルフ」になりますね。だったら、そのシステムをやってあげるのが、一番いいです。まあ、正直なところ、ロードス島戦記RPGよりソードワールドのシステムで、ロードス島舞台の話をするのがいいと思いますけど、これは個人的意見。
そう、ここで、「ロードス島RPGよりソードワールドのシステムを使ってやろう」と判断する、これは経験者(紹介者)側の判断でありまして、こういう方向修正はいいんじゃないか、むしろ紹介者に求められているのはその点でしょう。これを「いやいや、それよりこっちの方が面白いよ」といってトラベラーをやる......ってのはどうかと思いますが。
しかし、初心者というのは当然、どんなシステムがあるかわかっていないことが多いですし、ロードス島戦記RPGとトラベラーが全くの別物ゲーム、モノポリーと囲碁くらい違うという認識すらないわけですから、必ずしも「ロードス島(が再現出来るシステム)がやりたい」とは言わず、「TRPGというものをやってみたい」と言うこともよくあるわけです。そう、そもそもTRPGを体験してみたい、という言うなれば「シェフおまかせコースお願いね」的な投げ方をしてくるわけです。こっちの方が普通かも知れませんね。
そして、初心者向けシステムに関しての議論は、まさにこの「シェフおまかせコース」をどうするかという話になるわけです。
ここ、問題切り分けておきましょう。
最初のきっかけになったつぶやき「『クトゥルフ神話TRPG』は初心者向けじゃない」は、その意見(初心者向け)が正しいかどうかにかかわらず、「プレイヤーが望んでいるシステムが無い場合」の話であると。システム選択が、紹介者に全権委任されている状態での意見だと。
『クトゥルフ神話TRPG』は初心者向けではない、という論理
さて、先の意見を言った方の見解だと、「クトゥルフはPCが死んだり、発狂したりしてキャラロストしやすく、戦闘しても相手に勝てると限らないため、戦闘のカタルシスも無い。戦闘でどうやっても勝てないようなことをされて楽しめるのは熟練者だけである。だからクトゥルフは初心者向けではない」とのことでした。
この見解、三段論法で、ちょうど3つの文にまとまっています。
で、一つ目は、クトゥルフ神話TRPGの一般論になっています。これはおおむね正しいでしょう。例外はあるでしょうが、先ほども言ったとおり、例外を気にしていては議論が出来ませんから、ここでは無視します。
二つ目の文は簡単な論理帰結になっています......が、これ、果たして正しいでしょうか? 「戦闘で勝てないようなことを楽しめるのは熟練者だけである」というのは? 勝てなくても楽しめなくては、大抵のゲーム、勝敗のあるスポーツは初めてのゲームに勝った人しか、以後そのスポーツやゲームを続けていかない、ということになりますよね? ちょっとあげあし取りみたいに感じるかも知れませんが、戦闘に勝てなくてもその戦闘に満足することは充分あるハズなのに、この決めつけはちょっと強引すぎるしょう。
ここで明らかに、提言者は思い込みから論理ミスをしていますが、じゃあなぜ、そんな風な思い込みをしてしまったかという分析については、ちょっと後回しにさせてもらいます。
もうひとつ、ここには明らかな思い込みによる間違いがあります。「戦闘をする」のが当たり前という思い込みです。いや、ここは単に、武器を使っての戦闘だけではなく、KPが出してくるモンスターとの勝負と拡大解釈するべきかも知れません。つまり、何らかの方法で敵をやり込めねば楽しめない、という思い込みです。
確かに大抵のTRPGで、モンスターはシナリオの目的完遂のための障害です。ですが障害が全部モンスターではないのです。行く手を阻む崖だって、目的のお宝が入っている宝箱の鍵だって、敵が隠れているダンジョンのありかを調べるためにいろんな人に聞きまくったりしなくちゃならないのだって、障害です。
クトゥルフの場合、情報収集自体がクリアすべき障害であることも多いでしょう。そして、それらをクリアしたときのカタルシスはちゃんと得られるわけです。戦闘によらなくても。
たしかにモンスターは目に止まりやすい、わかりやすい障害ですが、これだけが障害ではないのです。
まあ、確かに「わかりやすい障害」なので、初心者向けにうってつけだとは思いますが、だからと言って初心者向けにはわかりやすい障害=モンスターを出さねばいけないと言うことにはならないでしょう。
唯一危険があるとすれば、モンスター=排除可能な障害と思い込んで突っかかって行ってしまうことですね。逆に言えばこの一点だけです。問題は。この勘違いだけ、避けられれば、決してクトゥルフが初心者向けで無いとは言えないと思います。
そういうわけで、第二の推論が間違っているので、第三の文(結論)は間違っていることになります。
つまりクトゥルフ神話TRPGは、プレイヤーが、出てくるモンスターがすべて(特に力押しで)排除出来る敵ではない、とさえ知っていれば初心者に勧めても問題はないシステムだということです。
いや、問題が無いどころか、他の要素はすごく初心者向きな点がたくさん有るのですけど、まあ、そこは別項目で語るとして。
勘違いの源泉
では、なぜ、提言者は「戦闘で勝てないようなことを楽しめるのは熟練者だけである」と思い込んだのでしょうか?
ここから先は、提言者の心理状態を勘ぐる、あまりお行儀のよくない話になります。多分本人が読んだら怒るんじゃないかな。でもまあ、なるべく彼を傷つけないよう気をつけながら、私の推論を書かせてもらいます。
彼は、たぶんTRPGには、コンピュータRPG、ドラクエやファイナルファンタジーといったものから入って来たのだと思います。
ここらへんのコンピュータゲームは、戦闘は楽しみだし、今勝てない相手がいるとしてもいずれ(レベルアップして)勝てる相手であって、永久に倒せない敵は滅多に出てきません。(つーか、そういうの出すとユーザーの評判がすごっく悪くなるんだよね、作り手としていうけど) つまり敵は倒せるのが当たり前のひとつの目標であるわけです。戦闘は楽しいし、勝つ方が当たり前、勝てなくても自分のせいだし、それでもいきなり勝てない敵をぶっつけてくるようなシナリオはクソゲー。成長も楽しいけど、それはできないこと(=勝てなかった相手)ができるようになる(=勝てるようになる)こと。
もちろん、それ以外にもストーリーの楽しさ謎解きの楽しさというのはありますが、ことモンスターに限っていうと、そういうことになります。
そして、この提言者さんは、初心者もまたそう考えがちである、と考えているようです。
さまざまな"初心者"
ですが、それ、ちょっと違うと思うんですよね。そこで、初心者を一緒くたにしていると思う。
最近の初心者さんはクトゥルフ神話についてある程度知ってる......それもハスターがどうの、ニャルラトテップがどう、というようなレベルではなく、クトゥルフ邪神は強力すぎて、普通の人間やちょっと強いぐらいの人間では勝てませんよ、という認識自体への理解がちゃんとある方が結構多いのです。
これはクトゥルフ神話の小説や映画やアニメから入って来たり、ニコ動のクトゥルフリプレイ動画から入って来ている方が多いせいでしょう。
こういう方々なら、勝てないモンスターを出した瞬間、叫びながら、逃げ出してくれます......もちろんプレイヤーの悲鳴は嬉しそうな悲鳴ですが。
そしてそれが楽しいのです。
ちょうど、ほかのRPGで......指輪物語RPGで汚いじいさんの振りしたガンダルフに出会ったり、ロードス島で美しいエルフに助けてもらって去り際に彼女の名をディードリットと知ったり、そういったのと同質の楽しさなのですよ。
彼、彼女らが求めているのはコンピュータRPGのような楽しさではなく、例えていうならお化け屋敷アトラクションのような楽しさなのです。
だから、戦闘の楽しさがなくても満足出来るし、戦闘が必ず勝てるものと思いこむ危険性も少ないのです。
これが、世代というか最近と少し前という"時代"の差違に起因するものか、それとも両者共に昔から混在して、初心者というくくりを役立たなくしているのかは、私にはわかりません。なんにせよ、サンプル数が少ないですからね。
ただ、そういうワケで、「『クトゥルフ神話TRPG』は初心者向けではない」という意見には、賛成しかねるのです。
さっき言った一点、「戦闘に勝てないので、戦闘によるカタルシスを得られない」がなければ、むしろ『クトゥルフ神話TRPG』は初心者向けだと言うことに関しては、項を改めて書きたいと思います。
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