今はその数も少なくなった現役の捕龍船クィン・ザザ号
肉・油・臓腑...時に懸けられた賞金を求め
それぞれがそれぞれの事情を乗せて
西へ東へ南へ北へ
天空を泳ぐ龍を追う
彼らに帰るべき港はない
風を捕らえ影を捉えて旅は続く
(第1話のエピローグ)
アフタヌーン連載の異世界ものファンタジーマンガです。そして今私の一番好きなマンガのひとつ。
私にとって「面白い」作品の定義のひとつに「創造力を刺激してくれるフィクション」というのがあります。
確かに、「うひゃーこんなかわいい娘たちに囲まれて暮らしてみてぇ」とか「こんな張り詰めて格好いいことしてみたい」みたいなのも楽しいんですが、同じくらい「おっ、こんなネタを考えついたぞ」とか「こんな作品を書いてみたい!」とか「こんな世界を舞台にしたゲームを作ってみたい」というような「創造力」やそのモチベーションを掻き立ててくれる作品も好きです。
で、『ダンジョン飯』とか『ベムハンター・ソード』とかもそうなんですが、この『空挺ドラゴンズ』はもう、そういった私のど真ん中ストライクの作品です。
世界としてはスチームパンクというのかな。でも今ひとつ「パンク」って感じじゃないですね。アウトローではあるけれど。
科学技術レベルとしては、飛行船と初期の内燃機関ぐらいの世界\、トラベラーで言うとTL5~6。ぶっちゃけて言うと、「天空の城ラピュタ」ぐらいな感じですね。飛行船が行き交っており、それが世界の都市や町をつないでいる。(でも小型飛行機は見かけてないな)
そして、空を「龍」と呼ばれる怪奇な怪物が飛んでいる世界でもあります。
龍はどうやら一体一体性格も外観も能力も違うらしく、知能なども違うようです。正体に関しても余り詳しくは触れられておりません。この龍を取るのが主人公たちであり、主人公の乗る捕龍船の仕事です。
龍はときどき町を襲ったり、町に落ちたりするらしいので、それなりに捕龍は役にたつ仕事ではあるのですが、それ以上に生物資源としての価値が高い。現実世界のクジラのように、身体のほとんどが何らかの役にたち、取引されます。そしてその肉はとても美味しい、らしい。主人公ミカはタフな脳筋野郎ですが、食いしん坊で、しかも龍の肉が大変大好き。ハッキリ言って彼は自分でその肉を食ってみたいからと言うかなり個人的なモチベーションで龍を狩っています。
このすっとぼけた主人公ともうひとりの主人公、新入りの女の子タキタを中心に話が展開していきます。『ダンジョン飯』のような架空グルメマンガみたいなノリも載せて。
というわけで、初っぱなからアクションシーンに異世界の噎せ返るような匂いと濃密な大気にやられてしまいました。
アクションシーンも、空のシーンも、なにもかもが実在感たっぷりで、手触りや匂いが伝わってきそうな絵柄。そして動き。大きな怪物と大きな船と小さな人間との組合せは、ともするとカットのつぎはぎになって、カメラがなにを追っているのか、なにが描かれているのかわからなくなることがあるのですが、このマンガにはそれがない。しっかりとしたカメラワークとカット割りでアクションを見せていきます。
もちろん、そんな画やマンガテクニック以外の部分もいい。
まず、キャラクター造形もいい。ミカは脳筋男(ややおっさんに入りかけの歳)ですが、すっとぼけている性格で、しかも龍の肉が大好きで龍を狩るのが大好き。そして「殺す覚悟のないヤツは死ぬぞ」という信念も持ち合わせている。
タキタは女の子ですが新入りなので、彼女の目線で読者は世界を見ていくことができる(もちろんかわいい)。
そしてそれを取り巻く脇役の人たちのキャラ造形も実にいい。ジブリ風の、そのキャラ独自の人生と考えを持ったキャラ、存在感のあるキャラクターです。
そうそう、ジブリやラピュタといいましたが、確かにかなり影響は受けていると思います。メカも、ファッションセンスも、脇役のキャラデザも、描画の線も同じような匂いはたっぷりする。けれどパクリなんて安易な言葉では表されません。完全に自分のものにしています。そのうえで「ジブリの中で好きな要素」がたっぷり入っているので、私は好きなのでしょう。
そして、このマンガを読んでて思うのは「ドラゴンの肉美味そー」......ではなくて(いやそれも感じるんだけど)、「この世界でTRPGシステムを作りたい!」という衝動。あるいは「この世界をボードゲーム、シミュレーションゲームで表現するとしたらどんなシステムとアイテムが......?」と考えてしまう衝動。あるいはもっと単純に「この世界で自分の作ったキャラの物語をやりたい」という衝動。
いいマンガです。とっても気に入ってます。この世界を旅したいと思うくらいに。
kindleだとまだお試し無料版があるのかな。読んでみてください。大お勧め。
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