『ケルト』がいっぱい。

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 ライナー・クニッツアというボードゲーム・デザイナーがいましてね。ファンなんです。

 多作家で有名な人です。そしてそのほとんどが面白い。

 アベレージヒッターっていうんですかね。私、そういう人が好きなんですね。小説家でも赤川次郎や宮部みゆきや辻真先とか。あるいは野球選手なら松井ゴジラよりイチローとか。自分は出来ないことだからかなあ、憧れるんです。

 ところが、それだけの大作家であるにもかかわらず、ゲーム大賞の類は結構後になるまで受賞しなかったのですよ。デビューはいつだかハッキリしないんですが(なにしろ8才の頃から作ってたらしい)、1992年の「クォ・ヴァディス」の初ノミネートから2008年のドイツゲーム大賞受賞まで、何度もノミネートされたのに、です。

 

 で、この2008年のドイツゲーム大賞の受賞作品が『ケルト』なのです。

keltis01_s.jpg

 というわけで、『ケルト』ですが。

 クニッツア、よっぽど気に入ったのか、それとも商業的な理由からか、その後同じテーマ(というか、ゲームシステムの一部)を使って、ケルトのバリエーションゲームをたくさん作ってます。こういうの、多作家には良く見られるんですよね。例えば、赤川次郎は「危険なものが人々の手を渡り歩く」というシチュエーションで、「さようなら、テディベア」と「毒 ~poison~」という2作を作ってますし(前者は危険物が、そうとは知らない人々の間でやりとりされ、後者は危険物が、それを知ってる人々が奪い合うという展開)。

 『ケルト:カードゲーム』、『ケルト:ダイスゲーム』、『ケルト:タイルゲーム』です。

 

 というわけで、まずは本家の『ケルト』から解説しましょう。

 

ケルト

 ケルトというタイトルがついていますが、なんでか「ケルト民族」のケルトとは綴りが違うんですよね。ゲームのは「keltis」、ケルト民族のは「celtis」です。

 まあ、たぶん商標問題関係か、「keltis」はドイツ語綴りなのかも知れない。

 で、そのケルトの石遊びというか占いをテーマにしたのが「ケルト」......ということになってますけど。

 正直、かなりアブストラクト(抽象)ゲームに近いです。ケルトネタである理由がない。いくらでもテクスチャー張り替えて、別(みたいに見える)ゲームになりそうです。

 だが、そこがいい。

 私なんかは、ボードゲームはこうでなくっちゃと思っちゃうクチです。もっと具体的なものを扱うならシミュレーションゲームでいいじゃん、と。

 個人的見解ですけど。

(まあ、ボードゲームとシミュレーションゲームではテーマへのアプローチ方法や立場や解釈の仕方などが違うことはわかるんですけども)

 

 さて、『ケルト』をまったく知らない人に説明するなら、こんな感じでしょうか。

「カードゲームの得点表が、すごろくになっている」

「すごろくの、駒の進め方がカードゲームになっている」

 つまり、2つのゲームの要素が合わさってるわけですが、これがかなり不可分に密接融合しています。ここがいいところ。

 カードゲームのように、手札があります。カードは5色で0から10までの11種類、つまり55のカード。これらは2枚ずつあります。あとゴールカードが各色2枚ずつ。

 手札から自分の前の場に、カードを出します。そうすると、カードの種類に対応したコマが1つ、動きます。

 keltis03_s.jpg

 で、この出せるカードに制限がありまして。

 まずその色の1枚目は(ルール的には)どんな数字でも自由に出せます。2枚目も、(戦略はともかくルール的には)自由に出せます。ですがこの2枚目で、3枚目以降に出せるカードが決まりまってしまいます。

 2枚目のカードが1枚目より大きな数字だったら、3枚目以降は昇順。低い数字では降順になります。2枚目も1枚目とまったく同じ数字だったら、3枚目がそれ以降を決めます。ちなみにゴールカードは2枚目以降どのタイミングでも出せますが、これをいったん出してしまうと、もうその色のカードは出せません(同じ色のゴールカードなら出せる)。

 例えば最初に赤の5を出したとする。次に赤の3を出したとすれば、以降そのプレイヤーは3以下の数字をどんどん低くするしか赤のカードを出すやり方はありません。

 というわけで、手札からカードを出す(これをカードをプレイするといいます)ことができたら、ボードのカードの色に対応する列に駒を進めます。進んだマスによって「願い石」があったり、ひとマス駒を進められたり、ボーナス得点そのモノが入ったりします。

 keltis02_s.jpg

 ですが。

 この得点すごろく。スタートからどれだけ進んだかで最終得点が入るんですが、最初のほうはマイナスなんですね。つまり、あまり進められるアテがないのであれば、むしろスタートに出さない方がお得なのです。スタートしなければ0点なので。

 いったん損する危険を冒さないと得点に結びつかない。

 このアンビバレンツがケルトの骨子の1つです。この後のバリエーションケルトにもこれは引き継がれています。

 さて、プレイヤーが自分の手番で出来るアクションですが。次の2つになります。

  1. 手札から一枚、カードをプレイする。その後手札を補充。
  2. 手札を一枚捨て、その後手札を補充。

 パスは出来ません。......この"パスが出来ない "と言うの、地道にキツいんですよね。どうしてもなにかしなくちゃならなくて、しょうがなく無理してカードをプレイし、その後の戦略の幅を狭めてしまう。

 で、手札の補充ですが。これは山札から取るほかに、捨てられたカードの一番上のものを取ることも出来るのです(捨てカードの山は種類別に分けられて山にされます)。つまり、自分が要らないからといってウカツに捨てると他人に利することがあるわけですよ。

 

 カードをプレイ(出す)ことができると、次はボード上で対応する列の駒(=石)を進めるのですが。ここでも悩ましい選択がありまして。

 まず、先ほど述べたとおり、最初のほうの点数はマイナスなので、その列に石を出したものかどうか悩む。列の先にあるボーナスや願い石の数、そして自分の手札にどれくらいその列のカードがあるか、他人がその列を延ばすかどうか(カード枚数は有限ですからね)、そういったことを検討して悩む。

 いけそうだとなると、大きい石(各自1個)を使うことも出来ます。大きい石は最終得点が2倍になります......ただしマイナスだとしても2倍。確実に前へ進められる自信があるところしか使う気になれませんね。

 

 ところでクニッツア、これ以前によく似たシステムで2人用ゲーム『ロストシティ』というのを作っているのですが。あるブログで「ロストシティが好きな人はケルトが嫌い、ケルトが好きな人はロストシティが嫌い」と言われていました。

 私は『ロストシティ』はプレイしたことがないんでなんとも言えないんですが、そうなんですかねえ。

 

 

ケルト:カードゲーム

 ケルトのカード部分を取り出したようなゲーム。

 keltis_Card02_s.jpg

 先ほど、「カードゲームとすごろくぽいゲームが融合したところが特徴」と言っておいてなんですが、それを大胆に切り捨ててしまっているのがすごいところ。

 普通なかなか出来ませんよね、一番の特徴であるところを切り捨てるなんて。ディベロップメントとはこういうものだというすごい見本。

 もちろん、すごろくの先に進む要素はちゃんと残っています。プレイで並べたカードが、進んだコマ数のように点数になります。ただしこれも例によって3枚目くらいまではマイナス点なので、リスクと目論見と手札を考えつつ、プレイするかどうかを悩むことになります。

 点数タイルはカードとなって、普通のカードの中に混じって手札に来ます。第6の色としてプレイしてもいいし(しかも昇順降順関係無しで出せる)、他の5色のカードに対して、同じ数字なら(色に関して)ワイルドカードのように乗せることも出来ます。もちろんプレイした分しか、最終得点になりません。

 願い石もカードになってますが、これは他のカードとは混ぜず、表に並べておきます。ゲーム中、同じ数字(色は違っても良い)2枚を捨てると、その数字に対応した願い石カードが取れます。

 2倍得点の大石の効果は切り捨てられてますね。あと捨て札を拾ってくる要素も無しです。

 keltis_Card01_s.jpg

 というわけで、ケルトをさらにシェイプアップしてカードゲームにまとめ上げました、というのがこの『ケルト:カードゲーム』。いやあ、ゲームのディベロップメントってこうやるんだ、というのが伝わってくる素晴らしい作品。原型の『ケルト』も面白く、とてつもなくよく出来たゲームなのに、それをさらにこうくるか!? みたいな。

 マニアの方、ボドゲデザイナー志望者にはぜひプレイして、デベロップメントの奥深さを知って欲しい作品です。

 

 

ケルト:タイルゲーム

 keltis_tile01_s.jpg

 で、『ケルト:カードゲーム』をさらにシェイプアップするとどうなるかというと、この『ケルト:タイルゲーム』なワケです。もう、究極までルールや要素を削り、残ったのがこれ、という感じのゲーム。

 まず、手札の概念がなくなってます。

 真ん中の場に置かれたタイルが、強いていえば手札代わり。最初は全部裏返しでおいてあります。(なので山札でもある)

 プレイヤーが選ぶのは次の3つのうちどれか。

  1. タイルをめくってそれを取り、自分のタイル列に並べる。
  2. タイルをめくって、取らない。
  3. すでにめくられているタイル取り、自分のタイル列に並べる。

 で、例によってタイル列は同じ色の昇順もしくは降順に並べ、並べられたタイル数でゲーム終了時の点数が決まります。

 keltis_tile02_s.jpg

 願い石、ボーナス得点はタイルに数字と一緒に書かれております。タイルを覚えてしまったらこれはちょっとアレな気はしますが、しかしちゃんとバランスは取られてると思います。大石の要素はないですし、手札の要素もないですが、逆に捨て札を拾われるという要素は復活しています。とはいえ、相手の邪魔するために手札にホールドしておくということはやれないので、そこに関しては薄味といえば薄味。

 完全にオープン情報のみのゲームになってます。その上で、タイルを取る、取らないでたっぷり悩めるという。究極までシェイプアップした『ケルト』です。

 すごく短時間で終わるのも魅力ですねえ。1ゲーム15分弱、慣れると5、6分で終わります。すげえ。

 実はシリーズで一番気に入っているゲームです。欠点は他のケルトシリーズと同じように4人までという人数制限。なので、ゲーム会でメンバーが全員集まるまでの間つなぎによくやります。短いから回転早いし、ルール説明もあっという間に終わるしね。

 

 

ケルト:ダイスゲーム

 keltis_Dice01_s.jpg

 ケルトのバリエーションが、どのような順番で発売されたかはちょっとわからないんですけども。少なくともカードゲームのあとタイルゲームだろうというのは想像がつきます。

 けれどこの『ケルト:ダイスゲーム』はどのタイミングなのか、ちょっとわからないんですよね。

 といいますのも、他の2つとちょっと異質なんですよ。シェイプアップしている点が。

 簡単にいいますと、元祖『ケルト』のカード部分をダイスにしたものです。

 ダイスは、『グリード』や『キング・オブ・トーキョー』などと同じように、ロックをしたり他のものを振り直すことによって出目をある程度コントロール出来るようにしてるのですが......元々あった「ダイスではなくカードを使ったすごろく」というアイディアをスポイルしてしまっていて、「ダイスをカードに置き換えたものをダイスにしたもの」と一回転して戻ってきてしまって考え落ちな感じに。

 おかげで戦略性や他人への妨害という点が完全になくなってしまい。

 keltis_Dice02_s.jpg

 ......まあ、つまんなくはないんですけども、特に裏面のエクスパンションルートを使うとそれなりに楽しいんですけども、やっぱり、元祖や姉妹作に比べると凡作かなあと。専用ダイスって制作コストが高いんで、そうすると商業的にはちとまずいんでないの、という感じ。

 現在ケルトシリーズの中で一番手に入りにくいもののようですが、まあ、無理して手に入れるほどのものではありません。再販もされないだろうな、先ほど言ったとおり専用ダイスって制作コストが高いから。

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このページは、makiyamaが2020年7月25日 09:03に書いた記事です。

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