『クトゥルフ・フラグメント』。

　ＨＪ社の『療養所の悪魔』はクトゥルフの呼び声ＲＰＧが一番脂ののっていた時期に出たシナリオ集で、８本のシナリオが載っているのですが、出来のよいものが多かったのですよ。表題作『療養所の悪魔』を始め、『オークション』、『モーリタニア』など。これらのシナリオのどこが優れているって、出来自体もさることながら、導入部が汎用性に富んでいるために、ちょっとしたキャンペーンの合間や、他のシナリオとシナリオの合間に挟みやすいという点です。

　『療養所の悪魔』は、精神療養所が舞台で、だから、ＰＣやその知り合いが狂気に陥ったあと、その治療と療養のために入れられた精神療養所での事件とすれば、簡単に続き物に出来ます。その他、当時の療養所の雰囲気の資料にもなりますので、このシナリオをプレイするのでなくても読んでおいて損が無い代物。

　『オークション』は舞台はヨーロッパ（オーストリア）ですが、アメリカに置き換えることも可能です（その場合、第１時大戦後の荒んだヨーロッパの雰囲気を楽しむことが出来なくなりますが、まあしょうがない）。オカルト的な骨董品オークションが発端になりますが、このオカルト骨董品、シナリオに関係ないものにもオカルト的能力や、クトゥルフ神話的能力が宿っているアイテムが出品されていまして、これらを使って他のシナリオを作ることも出来ます。また、曰く付きのアイテムのオークションなら、それだけでいくつものドラマ（シナリオ）が生まれてきそうです。オークションのしくみや雰囲気もわかりますし、ＮＰＣたちの行動（落札決定）の判定なども、応用が利きそうです。実際、私はこのシナリオは２～３回プレイをして、好評を博しています。

　『モーリタニア』は大西洋横断豪華客船『モーリタニア』の船内で起きる怪事件のシナリオですが、ＮＰＣに怪しい人物が多いので（具体的に名前を挙げるとネタバレになるので、伏せておきますが、1920年代のオカルト事件や謀略事件で有名な、ヨーロッパ以外の人物が......）、これまた他のシナリオに膨らませることが出来ます。それに、当時の豪華船旅の様子とか船の見取り図とか、参考になりそうなものはたくさん。シナリオも、有名な、あのタイタニックの話にすり替えることも可能です。

　......とまあ、いろいろ語れるシナリオがたくさん入っていたのですが、今回の『クトゥルフ・フラグメント』ではそのうちの『療養所の悪魔』だけが再録されたわけです。

　望むらくは、たの『オークション』『モーリタニア』もそのうちどこかで再録されないもんでしょうかね。もちろん詳細な資料付きで。