なぜゴブリンをいぶり出さないのか?

| コメント(0) | トラックバック(0)

前の話の考証で思い出したのですが。

 ツィッターで「なぜみんなは、ダンジョンの前で火を焚き、中のゴブリンたちをいぶり出さないのか?」という疑問を呈している人たちがいまして。彼らによると、罠一杯で、敵地でもあるゴブリンのダンジョンに向かうよりも、煙を炊き込んでいぶり出して弱っているゴブリンを討った方が楽なのに、冒険者たちはなぜそれをやらないのか、いやそもそも町の軍隊がそれをやっても良いではないか? というのです。

 まあ、細かく反論することは可能ですが、細かくしたところでツイッターの文字数制限内できちんと説明できるとも思えなかったので、こうやってブログに載せることにします。

 どの方面からの反論をするかで、だいたい次の3つの反論ができるでしょう。

 

1.そもそもダンジョン内の生物をいぶり出すことは可能か?(物理的な問題)

 

 まあ不可能だと思いますね。

 まず、煙をそこまで大量に出すのはムリ。ダンジョンは、空間容積にしたらかなり広いです。普通の一軒家とは比べものにならないでしょう。まあいわゆる4DKダンジョンだと凄く狭く見えるでしょうし、そのレベルならいぶり出せないこともないでしょうけど。学校の体育館並みの容積はあるはずですから、それを息苦しいほどに一杯にするのにどれくらいのたき火がいるのか。

 さらにダンジョン内に煙を送り込むのは、元々入り口から奥に向かって風が吹いているような洞窟じゃないとムリです。人力で仰いでも、せいぜい入り口から数メートル。空気はそんなに簡単にはいりません。燻煙除虫剤を放り込むならもう数メートルは奥になるでしょうけど、まあそこまでですよね。 

 もし風があったなら、それはそれで奥に穴が開いていると言う証拠ですから、煙が完全に充満するには山火事レベルの火が必要になります。

 さらに、煙だけでゴブリンを殺そうとするなら、もっともっと大量の煙を送り込まねばなりません。

 

2.いぶり出したゴブリンに勝てるのか?(戦術上の問題)


 外で待ち構えているのが数人の冒険者だったら、逆襲喰らうんじゃないでしょうか。ゴブリンの方が数が多いですから、外の方が有利に戦えるはずです。「ゴブリンごときに負けるわけがない」というなら(そういうシステムなら)、そもそもダンジョンに入って戦っても同じですしね。少数が多数と戦うのに有利なのは、多数がいっぺんに戦えない狭い場所、つまりダンジョンですよ。なにをわざわざ、多数のゴブリンに有利なところで戦う必要が?

 しかもこれ、出口がひとつだけだと仮定した話。数人ではすべての出口を封鎖したり張り込んだりするのは不可能でしょうから、そういった観点からもあんまり有利かつ楽な作戦とは言えません(ただしD&Dの魔法のウェブなど、簡単に塞ぐ方法があればなんとかなるかも知れませんね)。あ、ゴブリンを追い出して、残していったお宝ゲット、というなら別でしょうけど。

 

3.冒険者を雇う必要があるのか?(経済的・政治的な問題)

 

20141128_035938927_iOS_SS.jpg 逆に、外で待っているのがゴブリン以上の多人数の村人だとしたら?

 その時はいぶり出し作戦自体には意味があるでしょう。でも包囲戦をやるためには敵の3倍以上の人数が必要です。他に出口があるならその数だけの倍数になります。具体的にはゴブリンは何人くらいいると思います?

 村や街道を襲うのはだいたい7~8人でしょう。で、こいつらが盗賊団ではなく、ひとつの部族だとすると、住処には同じ数の戦闘に出なかったヤツと、メスと子供の非戦闘員が2~3倍以上いると考えるのが自然でしょう(ゴブリンの人口比なんか知らないので、結構適当ですけど)。つまりだいたいダンジョンには30匹ぐらいのゴブリンがいると思われます。30人のゴブリンを迎え撃つには90人の討伐隊。さらにかなりの超時間(たぶん3~5日)かかるでしょうから、この間交代する要員を考えるとその3倍。270人。

 しかも討伐隊には参加できないような人間も村にはいるわけですから、まあ少なめに見積もっても400人以上。中世ヨーロッパ風ファンタジーで人口400人越える村って結構大きいですよ?

 

 近くの都市から兵隊に来てもらう? なるほど。

 その場合、270人の兵士を雇っている都市でないとなりません。村人のように普段は他の生産仕事に就いていて......ではなく、一年中(いや交代交代かも知れないけど)常時270人からの兵士を雇っておけるのはかなりの人口を擁する都市でないと出来ません。具体的には、兵士のような非生産的人口を養えるのはその20倍の人口が必要だとされますから、約5400人。中世ヨーロッパ風でこの人口を当てはめると、かなり大きな都市です。しかも、そういった都市がたかが地方の村のために全兵士を出兵させ、自身の守りをおろそかにするわけがないですから、まあ実際に雇われている兵士はその倍以上にはなるでしょうし、そうすると養う側の人口も倍。10,800人以上。

 もとの数字を考えてみましょう。街道や辺境の村を7~8人のゴブリンが荒らし回っているとして、一万人以上の街の領主(当然近代のような領民を大切にする領主ばかりではありません)が、自分ところの守りを半分にしてまで討伐隊送るでしょうか?

 兵士270人を5日間(移動の時間も考えるとそれ以上)動かすなら、地方で冒険者を総額500GP(D&Dの場合)くらいで雇ったほうが領主としても安上がりですよねえ。あっ、書いてて段々、冒険者の仕事がダンピングされまくっているブラックワークに見えてきた。

 まあとにかく冒険者は文字通り一騎当千というか、50人以上の兵士に匹敵すると期待されてゴブリンダンジョンに送り込まれるわけです。

 なるほどねえ。「冒険者、雇うだ!」になるわけだ。かくて冒険者は楽はできないが仕事に困ることもない中世ヨーロッパ風ファンタジー世界ということですね。

« ジャガイモ警察。  |  本当は昨日、ゲームするはずだった。 »

トラックバック(0)

トラックバックURL: https://crossbow.mydns.jp/mt/mt-tb.cgi/649

コメントする

この記事について

このページは、makiyamaが2017年4月22日 17:43に書いた記事です。

ひとつ前の記事は「ジャガイモ警察。」です。

次の記事は「本当は昨日、ゲームするはずだった。」です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。

2022年7月

          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            

ウェブページ

  • PC
  • RPG
  • Dugeons&Dragons
  • Traveller
  • Cthulhu
Powered by Movable Type 7.3.1